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長崎地方裁判所大村支部 平成10年(ワ)78号 判決 2000年12月22日

原告

X

右訴訟代理人弁護士

澤田和也

里田百子

被告(以下「被告会社」という。)

株式会社Y

右代表者代表取締役

A

被告(以下「被告A」という。)

A

被告(以下「被告B」という。)

B

右被告三名訴訟代理人弁護士

C

主文

一  被告らは、原告に対し、各自五七四四万二〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年八月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  主張

一  事案の概要

本件は、原告が被告らに対し、原告が別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について、被告会社との間で、住宅設計施工請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結していたところ、引き渡された本件建物には瑕疵があり、これによる損害の発生について被告A及び同Bには過失があったと主張して、被告会社に対しては右請負契約の瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求及び選択的に被告A、同Bの不法行為について使用者責任もしくは代表者の不法行為についての法人の責任として、被告Aに対しては、不法行為に基づく損害賠償請求もしくは民法四四条二項の法人の代表者としての損害賠償責任として、同Bに対しては、不法行為に基づく損害賠償請求として、各自に対し、損害額合計六三七三万二八九〇円の一部である五七四四万二〇〇〇円及びこれに対する請求の後もしくは不法行為の後である平成一〇年八月五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  請求原因<省略>

三  請求原因に対する認否<省略>

第三  当裁判所の判断

一  請求原因1ないし3の各事実については、おおむね当事者間に争いがない。なお、請負代金のうち、追加工事分の支払額については争いがあるものの、被告会社がこれを原告に請求する意思はないというのであって、請求権を放棄したものと見られ、特段、損害額に影響しないから、これについては判断しない。

二  請求原因4について

本件請負契約に関して、原告が住宅金融公庫からの融資を受けなかったことについては、当事者間に争いがない。しかし、右契約書は、住宅金融公庫の契約書を利用していること、被告Bも住宅金融公庫の基準に則って、本件建物を建築した旨述べていること、本件建物が二階部分が原告の住居であるものの主に一階は診療所として利用される予定であり、不特定多数の者が利用することを予定した建物であること、本件建物の規模は、延床面積が248.29平方メートルで、ほぼ総二階建てであり、個人住宅としてはある程度大きなものであること、請負代金は、追加工事も含めると坪単価として約五〇万円程度であること、住宅金融公庫の仕様書は、基本的には同公庫が建築されようとしている住宅の建築資金を融資するに当たって、その担保価値を確保することを目的として建物の仕様を定めていると考えられるのであって、いわば融資を実行するための基準ではあるものの、建築確認を得る過程において必ずしも関係行政機関による十分な検査がなされているとは言い切れない状況にあって、現実に中間検査なども実施されることから、実質的に建物の安全性を確保する機能を有してきたことや一般に建築基準法令では具体的な基準が示されていない部分については、実質的な規範として運用されていることなどに照らすと、本件請負契約においては、原告と被告会社の間において、その設計図書に住宅金融公庫の仕様書も含まれる旨合意されていると解するのが相当である。したがって、設計図書を基準として現実の施工を対比することとする。なお、被告は、当初の確認図書と異なる内容に変更して施工しても、竣工検査を経たのであれば、問題がない旨主張するけれども、右変更が建築確認の内容として変更されているのであれば、その主張どおりであるが、単に設計図書を異なる施工をした部分が竣工検査で指摘されなかったならば、問題がないという趣旨であれば、独自の見解であって、採用の限りではない。

三  その余の請求原因について

証拠(甲第一ないし第六号証の四、第八号証の一ないし第三一号証、第三三号証、乙第七号証、証人河添佳洋子の証言、被告B本人尋問の結果(一部)、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実を認定することができ、被告B本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし、採用できない(なお、被告の主張のうち、主要なものについては、適宜以下の認定の部分で判断を加えておくこととする。)。

1  被告会社は、従来、本件建物のような医院兼用の比較的大きな建物の建築を手掛けたことはなく、もっぱら木造の軸組工法、いわゆる在来工法によっていた。本件建物も同様に木造軸組工法によっているが、一階の診療室が相当広いために、右工法は不向きであった。しかし、被告会社らにおいて、他の工法を採ることを十分検討してはいなかった。

2  本件建物の敷地は、諫早湾の埋立て地であり、盛り土がなされている上、その下はいわゆる潟が相当厚く層をなしているため、典型的な軟弱地盤であった。しかし、被告らにおいて、右事実を認識しながら、事前に地盤についての調査をしなかった。被告らとしては、施主である原告に対して、予め、地盤の調査が必要であること、そのための費用がかかること、その上で、希望する建物の構造を勘案して最適な基礎を検討し、そのための費用がどの程度かかるかについて説明すべきであったが、被告らはこのような過程を経ることなく、被告Bにおいて、特段、構造計算をすることもなく、杭基礎とべた基礎を併用した基礎構造とすることを決め、杭の数も当初は、九本でよいと考えていたが、結局、一二本にすることにし、杭打ちの業者に丸投げの形で基礎工事を施工した。なお、被告らは、本件建物の基礎が杭基礎であり、基礎スラブと基礎杭により構成されており、被告Bが本人尋問で陳述したべた基礎の部分は、基礎スラブに当たると主張するようであるが、指摘する杭基礎の凡例(乙第九号証一四五ページ)はRC(強化コンクリート)造りの場合の地下外壁の下部構造として基礎梁のさらに下部に施工されるものを指しているのであって、木造で杭基礎を採用する場合と同視できないのであって、採用の限りではない。

3  確認図書の矩形詳細図には、同図面のY方向の地中梁が四本図示されているが、実際の施工ではY方向の地中梁が三本しか施工されていない。その結果、上部木構造を支保する位置に基礎梁の配置がなく、建物荷重を安全円滑に支持地盤に伝達することができない状態になっている。

4  本件建物の基礎梁のうち、ユニットバスのサイズが合わなかったために、フーチングの部分をはつり取ってしまい、断面欠損と主筋の切断を生じさせている。被告らは、右はつり取られた部分が一部であることや単純梁の構造計算によれば、安全性が確保されている旨主張し、これに沿う証拠として被告B本人尋問の結果及び乙第二号証があるものの、本件建物の基礎は、単純梁ではないのであり、右の証拠はいずれも十分な根拠を示すものとは認めがたい。本件建物の基礎は、右のはつり取りにより、その安全性を有しない状態に至っている。そして、右の結果を招いたのは、被告Bの工事監理が不十分であったためである。

また、布基礎自体も構造耐力上主要な位置に施工されておらず、本件建物のH通り(待合室から診療室の間、仕切位置)、O通り(診療室内の丸柱位置)は、いずれも構造耐力上主要な部分である柱に当たるので、これらの下部には布基礎に緊結された土台が必要(建築基準法施行令四二条)であるが、本件建物ではその施工がない。このため、H通り、O通りの柱は地震で横揺れが加わった場合にずれたり、引き抜きが生じる可能性が否定できない。被告らは、丸柱が基礎梁の上に乗っていなくても問題はない旨主張するが、現にO通りの柱については既に横ずれが確認できる状態である。

5  本件建物には、二階バルコニーの下部に、本件建物引渡し後、柱が二本挿入された。しかし、その下に適切な基礎が施工されなかったため、柱脚付近のポーチ床面がひび割れして傾斜している。本来は、右柱の基礎は建物の基礎と緊結することが最善の方法と考えられるが、本件建物の外側階段などの沈下が深刻にみられる以前に施工されたことから、特段、右沈下について配慮せずに、右のような施工をしたにとどまっている。その結果、右傾斜等の現象が生じているのであるから、バルコニー下部の構造は、建築基準法施行令三八条一項の要求する建築物に作用する荷重や外力を安全に地盤に伝える基礎構造とはいえない。また、原告本人が右の施工を被告会社に指示したとは認めがたい。

6  本件建物で打設された杭基礎について、被告らは、本件建物で打設された杭基礎について杭打工事報告書(乙第三号証)を提出するのみで、一二本の杭を打設した計算根拠は何ら明らかとされていない。被告Bは、杭本数を決定するにあたり、何ら構造計算をしていないというのであって、杭基礎の前提荷重にべた基礎耐圧盤の自重を考慮していたかも不明である。このように、本件建物の杭基礎の構造耐力上の安全性には、疑問がある。

7  建築基準法施行令四六条四項により本件建物の必要耐力壁量を計算すると、一階XY方向において43.78メートル、二階XY方向において25.86メートルの壁量が必要となる。しかるに、本件建物の確認図書においては、一階X方向において52.62メートル、Y方向において43.78メートルの施工をなす設計がなされており、右必要壁量を満たすが、実際の施工では、筋違端部の緊結が施行令四五条の要件を満たさず、不良であって、相当筋違の施工があったものとは見られず、所定の耐力がない。

本件建物の外壁材には、設計図書において、「防火サイディング倍率1.0」と記載されており、構造用面材を使用するものとされている。にもかかわらず、実際に施工されている外壁は、建設省告示第一一〇〇号に示された構造用面材に該当せず、かつ、その施工方法も右告示に定める施行方法によっていないのであって、構造用面材としての耐力を有しない。この結果、一階のXY方向いずれも施行令四六条四項の要求する必要壁量を充足しないから、構造上の安全性を欠く。なお、実際に施工された外壁材について構造用面材と同程度の耐力があることを認めるに足りる証拠もない。

さらに、本件建物の一階南半分については、Y方向にのみ、耐力壁があるだけでX方向に水平力が加わるとねじれを生じる設計内容となっており、また、実際の施工においては南東隅に耐力壁が一切なく、施行令四六条一項の要求するバランスの良い配置とはいえない。さらに、耐力壁が一、二階で位置の一致しているものがなく、上下階を通じて見ても極めてバランスが悪い構造となっており、右耐力壁の配置は、施行令四六条一項に違反する。

8  木構造

(一) 柱脚と基礎の緊結不良

一階平面図O―7、O―15の丸柱の下部には基礎梁がなく、柱脚と基礎の緊結がない。これでは、横ずれ、引き抜きに抗することができず、施行令四二条一項に違反する。また、右丸柱の下部には束石の施工がなく、土間に水が溜まると束が水を吸い、腐食するおそれがある。単に基礎スラブと防湿シートがあるだけでは、結露による水や浸水などにより腐蝕することも考えられる。

(二) 柱頭と横架材の緊結不良

本件建物の一階平面図O―15、I―17については、柱頭と横架材間に何らの緊結もなされておらず、施行令四七条に違反する。

(三) 小屋梁の緊結不良

本件建物の小屋梁継ぎ手やT字取り合い部に金物施工がなく、また、金物補強が施工されている部分にも、弛みがあって、施行令四七条に違反する。

(四) 床梁の緊結不良

本件建物の二階床梁には、ボルト穴が設けられているにもかかわらず、ボルトが施工されていない個所があり、また、床梁と火打ち梁とを緊結するボルトが弛んでいるなど施行令四七条に違反する。

(五) 床束と大曳接合部には金物補強がなく、接合部のずれや転倒を防止し得ない。

(六) 小屋筋違のたわみ

本件建物の小屋筋違が異常にたわんでいる個所があり、引張力に抗するという小屋筋違の役目を果たせない。

(七) 小屋束の材寸不足

本件建物の確認図書においては、小屋束は九〇×九〇ミリメートルと明記されているにもかかわらず、実際の施工は八五×八五ミリメートルでなされており、右材寸を満たさない上、断面欠損も認められ、小屋束損傷の可能性がある。

(八) 垂木の継ぎ手配置

継ぎ手は耐力上弱点となるので、一個所に集中しないように乱に配置する必要があるが、本件建物では乱になっておらず、屋根の平面性を確保し得ない状態となっている。

(九) 材木の材質

本件建物の小屋組に使用された木材のほとんどの部材に割れ、丸み及び節などが見られ、また、若齢材が使用されていて、施行令四一条に違反する。

(一〇) 根がらみの未施工

外力により床束がずれたり、倒れたりしないように根がらみを施工する必要があるが、本件建物の床束には一切その施工がない。そして、これを施工することが不可能であったとはいえない。

(一一) バルコニーの床組

本件建物のバルコニーは、はみ出し部分の出寸法が大きすぎ、また、根太が床梁に乗せかけられているだけで、その固定も釘打ち込みのみで根太の回転を防止し得ない施工となっている。このためバルコニーが下がってきており、被告がなした柱二本の補強では、バルコニーの沈下を防止し得ていない。

9  その他

(一) 屋外階段の施工不良

屋外階段は、建物本体と接合されておらず、また、自立した構造となっていないため、隣家に向かって大きく傾いている。

(二) バルコニーの防水不良等

二階バルコニーの床面は、ひび割れ、漏水を生じており、防水もしくは下地の施工の不良によるものと思われる。

(三) 床下の防湿不良

床下の換気状態が悪いため、柱にかびが発生している個所がある。

10 本件建物の欠陥は、多岐にわたっており、しかも、部分的な補修工事で対応できるのは、金物を追加施工することが考えられる軸組や二階の床組やバルコニーの防水工事などに限られ、設計から再検討すべきであることからすると、基礎、耐力壁、小屋組、一階の床組、バルコニーの床組、屋外階段などいずれも解体、再施工が必要である(なお、基礎については、不等沈下が生じた形跡自体はないが、はつりがあることや設計の見直し、結露の発生など種々の欠陥があることから、解体、再施工もやむを得ない。)。

そして、右のように大半の部分で解体再施工を要することから、結局、取り壊して建て替える方法によらざるを得ない。

11  本件建物を取り壊して、建て替えるのに要する費用は、現状の杭基礎を撤去することなく、いわゆる埋め殺しにすることや再設計によっても、取り外して再利用可能な資材などを保管して、再利用することを前提とすると、現状の建物の解体費用、再利用可能資材の取り外し、保管、再施工などに関する費用(但し、再施工に要する費用は新築工事費に含まれる。)及び建物の新築工事費から再利用可能資材の品物代金を除外した費用の合計額となる。そして、現状建物の解体費用としては、本件建物上屋解体に九〇万六六九六円、基礎解体に八三万〇八三〇円及び残材処分に一一四万四〇〇〇円の合計二八八万一五二六円を要する。さらに、再利用可能資材の品物の代金としては、別紙Ⅱ―1記載のとおり合計二〇四万五九六六円となり、その撤去、保管に要する費用としては、別紙Ⅱ―2記載のとおり、合計六九万円を要する。本件建物の新築工事費は、合計三八〇一万七三七一円であるから、これから、右再利用可能資材の品物代金二〇四万五九六六円を除外すると三五九七万一四〇五円となる。これに、右解体費用二八八万一五二六円、再利用可能資材の取り外し、保管などに要する費用六九万円を加えると、合計三九五四万二九三一円となる。これに消費税相当額一九七万七一四六円を加えると、四一五二万〇〇七七円となる。

12  右の建物の解体、建替え期間中、本件建物に相当する建物を賃借しなければ、原告の鍼灸院の営業に支障が生じるから、本件建物に相当する建物を賃借する必要があるが、これには、五九〇万四五五〇円を要する。

13  本件建物の右解体、建替え期間中の仮住まいと補修後の引っ越し費用として前者に二五一万九五五〇円、後者に二一三万一七九〇円の合計四六五万一三四〇円を要する。

14  原告は、建築に関して素人であって、本件建物の欠陥を調査、鑑定するためには建築専門家に依頼せざるを得なかった。そのための費用として二〇〇万円を要した。

15  原告は、屋外階段の転倒を防止するための費用として一万五〇〇〇円を要した。

16  本件建物の欠陥は建物の構造上の安全性にかかるものであり、これを知った原告及びその家族の精神的打撃は大きく、被告らの誠意のない対応から受けた被害も甚大であった。これを慰謝するには一五〇万円が相当である。

17  欠陥住宅に関する訴訟は技術的専門的であって、原告は弁護士に依頼せざるを得なかった。これに要すると認められる金額は五五六万円である。

18  右認定にかかる原告の損害は、六一一五万〇九六七円となる。

右認定の事実によれば、本件建物は、建て替えによらずに補修することは、著しく困難であるというべきであるから、請求原因5を認めることができる。また、請求原因6の損害については、原告主張の損害のうち、右六一一五万〇九六七円の限度で認定することができる。

そして、被告会社が右認定の欠陥について瑕疵担保責任を、被告B、同Aにおいて、それぞれこれを防止すべき注意義務を負いながら、これを果たさなかった過失によりかかる欠陥を生ぜしめたと認められるから、不法行為責任を負うと認められる。

そうすると、被告らに対し、右認定の損害のうち、各自五七四四万二〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年八月五日から支払済みまで年五分の割合による金員の限度で支払を求める原告の請求は理由があることに帰する。

四  結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官・島田睦史)

別紙<省略>

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